Flower+1<お花のふるさとと知られざる魅力>

VOL.7 長野「堀木園芸」のこだわりのバラ

雄大な山々に囲まれた伊那谷でこだわりのバラを栽培

フラワーショップの店頭で見かけないことがないほど、私たちにとって身近な花のひとつがバラ。特に秋はバラの旬ということもあり、さまざまな種類が出回っていますね。

今回訪ねたのは、長野県下伊那郡松川町でこだわりのバラの栽培を手がける堀木拓也さんです。

南信州・伊那谷の中央に位置する松川町は、西に中央アルプス、東に南アルプスを望み、桃や梨、りんごなど果樹の栽培が盛ん。堀木さんはこの地で先代が興した「堀木園芸」の2代目で、年間30種類ほどのバラの栽培を手がけています。

人生の節目を彩る、ロマンチックな名前のバラたち

堀木さんのバラは、市場にはあまり出回らない希少品種やオリジナル品種が中心。その品質の高さから、ブライダル需要が多いことで知られています。スモーキーピンクや緑がかったクリーム色といった、なんとも言えないニュアンスカラー。幾重にも重なった花弁も繊細な堀木さんのバラは、普段見かけるものとは別次元の美しさです。

「日本の切り花って、よくも悪くも固定のイメージがついていますよね。バラの場合は、赤やピンクで、花弁の先が尖った花を思い浮かべる人が多いと思います。でも実はこのようにいろいろな咲き方や色合いがあって、それぞれに魅力があるということを伝えていきたいんです」

オランダで修業をしていた20代の頃、男性が気軽に花屋に寄って花を買っていく姿を見て、衝撃を受けたという堀木さん。堀木さんが作ったオリジナル品種に「EVERLONG(ずっと/永遠)」「ALWAYS ON YOUR SIDE(いつでもあなたの味方)」などロマンチックな名前のものが多いのも、男性から女性へ贈ることを想定しているからだとか。

「元々音楽が好きなものもあり、オリジナル品種の多くに国内外のロックバンドの楽曲の名前を付けています」。例えば100枚以上の花弁がぎっしり詰まった「LAST NIGHT ON EARTH」は、アメリカのパンクロックバンド・グリーンデイの楽曲から名付けたもの。「地球最後の夜に、君にすべての愛を贈る」という意味合いが込められており、プロポーズの贈り物やウエディングブーケ用の花材としてとても人気が高いそうです。

バラの個性に合わせて栽培方法を変えています

では、堀木さんのバラはどのように栽培されているのでしょうか。聞けば、バラの性質に合わせて、水耕栽培と土耕栽培を使い分けているとのこと。「水耕栽培はパキッと鮮やかな色合いが出るのに対し、土耕栽培は繊細でやさしいトーンの色になるんです。両方試してみて、どの方法が適しているのかを品種ごとに見極めています」

一方で、バラは病気にかかりやすく、他の花に比べて手間がかかるのも事実。堀木さんは「そこは腕でカバーですね」と笑いますが、やはりここ数年の異常気象には悩まされているといいます。「大雨や長雨が続くとやはり病気にかかりやすくなるので、湿度管理には気を配っています。ハウスの地面に保水機能のあるワラを敷き詰めているのもそのためです」

花のプロからも「美しいだけでなく、持ちもまったく違う」と一目置かれる堀木さんのバラ。その秘密は、こうしたきめ細やかな品質管理にあるのですね。

長持ちさせる秘訣は、飲めるくらいきれいな水を保つこと

「他の花材と合わせたときに突出することなく、自然に溶け込むようなバラが理想」と堀木さんが言うように、堀木園芸のバラの魅力のひとつが、他の花材と合わせやすい柔らかでナチュラルな色合い。秋はグリーンの葉物や枝物と合わせると、その可憐な美しさがいっそう際立ち素敵です。

また「バラは痛みやすいイメージがありますが、人間が飲めるくらいきれいな水を保つことで、持ちがぐんとよくなりますよ」と堀木さん。コツは、洗面所やキッチンなど普段よく足を運ぶ水まわりに飾ること。すると、洗面所で歯磨きをするタイミングで水替えをしたりと、日常の動作の中に無理なく花の手入れを組み込むことができるのだそうです。

 

いつもの暮らしの中にバラがあるだけで、気持ちがぐんと華やぐもの。今年はいつもより少しだけ特別なバラで、深まる秋を楽しみたいですね。

 

協力: OZmagazine[スターツ出版(株)]